足先の白いその黒猫は、
いつも家の周りにいました。
まだ、子猫です。
親や兄弟姉妹もいないらしく、
一匹でぽつんと佇んでいるのです。
人懐こいわけでもなく、
自ら人に近寄りはしませんが、
こちらからゆくと逃げもしません。
いつしか近所の人たちが
段ボールを持ってきたり
食事や毛布を持ってきたり、
世話をするようになりました。
夜はいつもちゃんと
段ボールハウスに入り、眠っていました。
わたしはその子猫を
ホワイトミトンと呼んでいました。
ある日、ホワイトミトンが近隣の玄関先で咲いている赤いバラをじっと見ていました。まるで置物のようにきちんと座り、わたしがすぐ後ろを通っても気づかずに。少し心配になりました。野良で暮らしてゆけるのだろうか。その姿が愛おしくて、そのままにしておきたくて、声をかけることはできませんでした。特別なことではないけれど、そのとき感じたことはこころに残っています。
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本日の一杯☕
なにげない日々が思い出になる
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登校途中に段ボールハウスを見ると
ホワイトミトンがちょこんと座っています。
おはよう、と声をかけて学校に向かいました。
学校から帰ると、
段ボールハウスがありません。
わたしは慌てて家に帰り、家族にいいました。
「ホワイトミトンがいないの!」
「ホワイトミトン?
ああ、白靴下のこと?
どうしても飼いたいという人がいて
もらわれていったみたい。」
そう聞いて、嬉しいような
寂しいような、不思議な気持ちでした。
子猫にしてはおとなしく、
カレンダーに登場しそうな風貌です。
こんなに可愛いのだから、
飼いたいと思う人もいるでしょう。
ただ、凛として、それが切なく感じました。
今思うと、もともと、
飼い猫だったのかもしれません。
わたしの日常を、
通り過ぎただけの子猫でしたが、
ときどき思い出します。
幸せだったらいいな、って。